1.心身はゆるゆるモードに入っていきました
伝統料理の粋(すい)を味わいながら、時おりお話を伺っているうちに、次第に心身はゆるゆるモードに入っていきました。完全に力が抜けて、センサーがフルに働くモードです。目がトロンとして、眠たそうに見えたようですが、眠たくなっていた訳ではありません。
2.食材の流通経路にこだわる
料理長のご説明から印象に残ったお話しをご紹介します。北海道産の出汁は、日本海ルートと太平洋ルートで味が違う。日本海ルートは、滋賀や富山など寒い気候の中でいったん保管をされてから届けられるから、よりいい味を出していけるそうです。
在庫をできるだけ減らして、「早くさばく」のが、流通に流す食材の基本ですが、出汁にかんしては、流通経路にもこだわるとのこと。その見極めの(目安の)一つとなるのが、どの会社がその商品を販売しているのか、その所在地をチェックするのが良いそうです。食材のラベルを眺めて、そこまで推しはかることをしたことはありませんでした。実際には、自身で比べてみて、実証していくことも大切であることを重ねてお伝えされていました。
3.その年に採れた野菜を使う
鈴木料理長からのお話しをもう一つご紹介します。会場となった泉竹さんでは、野菜の鮮度にこだわるそうです。冷凍保存が発達した今日、一年前の野菜を解凍して食すことはよくあることですが、泉竹さんはそれをしないそうです。あくまで今年採れた野菜を使うとのこと。その年の気候、温度や湿度の中で育てられたお野菜で、調理をなされるとのこと。
4.素材の仕込みは別々に行う
こだわり抜いた素材は、必要に応じて数日仕込みをします。素材同士を一緒にはせず、別々に仕込みを進めて、調理をする時に初めて素材同士を引き合わせるのだそうです。
5.食材は固有の波長を有する
そのお話しを聴きながら、食材一つひとつ固有の「波長」について思いを馳せました。私たち人間は、一人ひとりがその人特有の「波長」を発しています。「波長」が合うとか合わないとか言います。目には見えないけれど、人のみならず、すべての物質はその固有の「波長」を奏でています。食材も同様です。
個々の食材が固有の波長を発していて、調理をするときに、初めてその食材同士が強く引き合い、新しい波長を奏でる。それを私(たち)は頂いて、自らの波長として、再び奏でる。
6.食する営みで新しい波長が生まれる
料理を丁寧に心をこめて作るとき、そこに生まれる食材と食材との新しい出会い、それを美味しく頂く私たち人間の食生活の営みは、それ自体において、オリジナルの波長を奏でています。どのような波長を奏でるかは、仕込みにかけられた手間や時間、食材が育った環境、そして私たちが口の中でもぐもぐと咀嚼するプロセスすべての交響曲として、新しい振動が生まれます。
7.手間をかけることで気持ちが入る
料理に限ったことではありませんが、手間をかけるということは、それがたとえ単純なことであっても(単純なことのように見えても)、たとえいつもの当たり前のことのように思えても、そこには人の気持ちが入っていきます。人の気持ちが入ることで、少しずつ初めの状態と違ってくる。結果的には、似ていてまったく違うものになったりする。気持ちを入れていくというのは、そういうことなのでしょう。
8.ホメオパシーは波動を高めたレミディを処方する
ホメオパシーという治癒の方法があります。ホメオパスというカウンセリングをする人のアドバイスに基づいて、数千にも及ぶレミディが処方されたりもします。レミディとは、水玉とも愛称されていますが、ある成分を何度も薄めて、その波動を高めながら、元の形状、成分はほとんど残らない状態で提供されます。
ホメオパシーと「精進料理」とは、まったく別物の概念なのですが、ボクには丹精を込めて仕込みをしていく精進料理と、何度も波動を高めながら、気薄な水分を水玉に染み込ませて、それを処方していく「レミディ」が同じような響きとして伝わってきます。
9.咀嚼で食材の奏でる波長を感じ取る
「本物のお味」は、実際にゆっくりとそれに向き合って噛みしめてみれば分かることです。手間をかけて育まれていく味は、人の心の中に染み込んでいくように思います。ずっと口の中で噛んでいても、味が味としてそれを味わう人を癒し続けてくれています。
美味しいと感じるのは、人がそれを求めているからだと解釈します。端的に、美味しさは身体が本能的に求めているものと直結します。中には、身体を欺く味もあります。唾液と融合させていきながら、ずっと何度も噛んでいるとその正体はすぐに明らかになります。唾液という名の酵素で、食べ物の味は、裸にされてその本質を伝えてきます。その食材の奏でる波長を感じ取れるひとときでもあるのかも知れません。人間の機能・性能に、ただ驚くばかりです。それを信じていきたいです。その能力が人間にはあるからこそ、適者として生存している生き物の「種」一つなのでしょう。願わくば、過ぎた欲による破壊につながることのないよう、奏でる波長の調和をチューニングし合える地球の一構成物質で在りたいです。
10.心身に心地よいお味として変化する
泉竹の精進料理において、鈴木料理長がこだわられていたことは、素材の選び方であったり、仕込みのしかたであったり、時には、流通ルートであったりもしました。その先に、素材を活かした料理が施されます。調理に使う素材を丁寧に仕込むことで、結果的にはお味がまろやかになったり、新しい栄養素を宿したりしながら、心身に心地よいお味として変化していることを、今回の「試食会」で体感しました。
質の高いサービス、洗練された一品は、それに携わる人の心意気があって、初めて目の前に形となって現れます。食すのは一瞬のことかも知れませんが、その一瞬をお届けするための調理人の心に触れるまたとない機会を得ることができました。企画頂いたプラントベースの協会(*1)、お料理を施して頂いた泉竹さん(*2)、今回の企画をご紹介頂いた門倉さん、ご同席頂いた土屋さん並びに、ご一緒頂いた20人の参加者の皆さまに感謝します。
プラントベースの協会(*1) 正式名称は、一般社団法人植物性料理研究家協会です。
(*2)泉竹は、先月より移転準備のため、現在は仕出しと出張サービスのみの対応となっています。ぜひまた今回のような体験イベントが再開頂けることを願います。
11.精進料理試食会御献主
【前菜】舞茸と小松菜の浸し
【一の鉢】胡麻豆腐 菊花 蛇の目 胡瓜 山葵醤油
【二の鉢】 野菜の白酢和え 大徳寺麩 酢取り茗荷
【椀変わり】徳利蒸し 焼き豆腐 舞茸 湯景牛ぼう巻き 紅葉おろし 柚子味噌 酢橘 三つ景
【三の鉢】甘露梅の日の出揚げ 大景
【小鉢】汲み上げ湯景と茸の当座煮
【煮物】海老芋の霙がけ
【食事】黑豆御飯 ごま塩
【香の物】柴漬け 胡 瓜茶子漬け 昆布
【味噌汁】味噌建長寺汁 粉山椒
【水菓子】メロン 苺 洋梨コンボート 林檎
令和三年十二月十八日